ちょっと夫婦で

 札幌に用事が出来て、女房と出掛けることになった。
 以前なら迷わず車ですっ飛んで行くところだが最近は運転が億劫になっている。
 雪道だしな、高速料金もなあとぼやいてみせて都市間高速バスなるものに乗ることにした。JRに比べて時間は多少かかるが近間の停留所からも乗ることが出来るし料金は安いし、これは便利だ。時間など本があれば何も気にすることはない。冬季は遅れることが多いと聞いたから余裕をみたが、かえって予定より早目に着いて、デパートで時間つぶしをしなければならなかった。

 それ程久しぶりというわけでもないのだが車に乗っている時とは目線が違うせいだろうか、どうもいまひとつ地理がしっくりこない。
 地下鉄はあっちだったよな、女房に確認すると、さあという返事。
 さあと言われれば心もとなくなって、案内板はないかと二人できょろきょろ辺りを見回す。何か、やっていて自分でも小津安二郎の映画の老夫婦みたいな気がするから妙だ。

 それにしてもやたらと階段の上り下りが多い。階段を下りて歩いて、下りて歩いて、地下鉄を降りると今度は階段を上って歩いて、上って歩いて、駅から徒歩八分と聞いていたが構内を歩くだけでもう八分はかかっているのではないか。
 札幌は美しい町なのに、こうして地下になってしまえば全国どの都市ともそれ程変わりばえはなく、もったいないことだ。
 田舎の人は日頃歩くから足腰が丈夫で、というのが常識かと思っていたが、どうして、今日では都会の人の方がはるかに足腰を鍛えているかもしれない。

 用件は二時間あまり、心楽しく済んだ。
 時間が早かったから、どうすると女房に聞く。どうすると言ったって食品街をひやかすか、本屋に入るしかないわけだけど、もういいわと女房が言う。私も同じ気持ちだったから缶ビールを一本買ってもらってほどなく出発するバスに乗った。
 何か、俺たちすっかり田舎のねずみになったようだなと言うと、声をたてずに女房が笑った。

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