偕老同穴

 「ねえ、偕老同穴(かいろうどうけつ)って知ってた?」と聞くから「一緒に年をとって最後には同じ穴に眠る、だったかな。夫婦仲むつまじいという意味の言葉だったと思うよ」と答えながら、ふと見ると女房は笑っている。
 どうも、いつもの知ったかぶりを試されたようだ。「カイロウドウケツ」という生物がいるのだという。早速調べた。
 深海にすむ海綿動物の一種で、西洋では「ビーナスの花かご」と呼ぶ。ヘチマ型の竹かごみたいに空洞になっている。その中に「ドウケツエビ」という雌雄一対のエビがすむ。利口なエビだ。敵から襲われる心配もせず、夫婦水入らずで一生過ごす。それで、この故事成語をたまわったらしい。
 子供ができたらどうするのかな、なんてちょっといらぬ心配もしないわけではない。ごくまれに一匹ということもあるらしいから、やっぱり連れ合いを失うこともあるんだろう、自然界も厳しい。
 エビは世界で三千種、日本には六百種ほどいる。日本人は無類のエビ好きで、世界中のエビを集めている。だったら、このエビの存在だって、もう少し知られてもいい。
 「熟年離婚なんて言っていると、ドウケツエビに笑われるぞ」と、この正月、女房を相手に一杯やりながら盛り上がってみよう。 (北海道新聞「朝の食卓」2009年1月3日掲載)

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