闇の果て (十一)

 どこでどう聞きつけるのか村に飢饉の噂が立つとまずやってくるのが女衒たちだ。
 わずかな金で村中の娘を買い漁っていく。
 飢えて死ぬのと体を売って生きるのと、どちらが切ないか判断の難しいところだが、少なくとも親にとっては目の前で子供が瘦せ衰えて死んでいくのを見るのは耐えがたいことかもしれない。
 畔の向うから子供二人をせかせながらやってきたのも商売をうまくまとめて都にもどる女衒の一人にちがいなかった。
 娘二人は姉妹なのか、見知った顔ではなかったが上の方でもまだ十才にはなっていないだろう。
 泣きながら追い立てられていくのを、弥助は眉を顰めて見送った。

 それでなくても弥助の心には不愉快なものが蠢いていた。
 あの日、巫女に言われた言葉が忘れられず考えあぐねた末、とうとう今日、寺に教えを乞うたのだ。
 人は犯した罪を許されることがないのだろうか。
 弥助は人並の信仰心しか持ち合わせなかったがそれでも宗教をまるで無視できる程、無神経ではなかった。
 それなりの修業を積んだ者なのだから、それなりの答は出すだろう。
 しかし思いあまった末の弥助の質問はみごとにはぐらかされてしまった。
 弥助はにがく、寺でのいきさつを思いかえした。

 人目を憚って弥助は村から離れた寺を探したのだ。
 一刻も歩くと見栄えのする寺を見つけたので苔むした山門を潜っておとないをいれた。
 大きな声の返事があって、やがて血色のいい大男が現れた。
 なにか御用かな、和尚の声は鷹揚で人を安堵させるものがあった。
 一つ教えいただきたい、弥助は膝を折って頭を下げた。
 犯した罪はいかようにすれば許されるのですか。それとも許されることはないのですか。
 しばらく、弥助を見下ろしていた和尚がおもむろにいった。
 そうさな、ありがたいお経がある。どんな罪でも許されるというお経じゃ。お布施を持っていらっしゃい。
 拙僧がその経を読んで進ぜよう。

 要は金を持って来いという話なのだということは弥助にも理解できた。
 金か、金なら腐る程あるが、おまえに恵むつもりはないよ、喉まで出かかった言葉をのんで、わかりました、布施を用意して出直しましょう、弥助はもう一度慇懃に頭を下げた。
 馬鹿にした話さ、と弥助は思った。
 金ですむ話なら俺はなにも苦しまないのだ。
 熱風が一吹き頬を嬲った。
 目を上げると女衒の一行は村のはずれに消えようとしていた。

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