朝の食卓

朝の食卓

辞典片手に

 辞典も楽しいものだ。 小説にあきると私はよく辞典を開く。 「一」は漢和辞典の最初に出てくる。 息子の名前をどうするか、頭をつきあわせた両親があっちをめくり、こっちをめくりしてさんざん悩んだあげく結局元にもどって落ち着くまでにどれ程の時間が...
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エビス

 イザナギ、イザナミの最初の子をヒルコという。ヒルコは生まれながらの不具だった。そこであし舟に乗せて川に流す。 古事記にそうある。 都合の悪いことはなかったことにしてすます性向は当時からすでにあったようだ。 知ったかぶりのついでに言えばこれ...
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マイ・ブーム

 今、私たちはことわざを合体させる、ことば遊びに熱中している。 たとえば今日の政治状況を一寸先は闇夜の鴉と表現する。一寸先は闇と闇夜の鴉を尻とりでつなげたわけでなにか意味ありげなうさんくさい感じが気に入っている。 女房だって、ケーキをいただ...
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風邪かもしれない

 ごほんと一つ咳をして台所の女房をうかがった。食事の準備に夢中で聞きもらしたか、反応がない。そこでごほん、ごほんとさらに大きく咳をする。 どうも今朝は身体が重い。けっこう熱もあるんじゃないか。 こんなに具合が悪そうなのにどうして女房は気付い...
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なさけない

 テレビから目が離せない事情もあった。背後にあるはずのごみ箱めがけて、前をみたまま丸めたティッシュを肩ごしにぽいと放った。 するとどうしたあんばいか思いもかけず、その一投が見事に決まってしまったのだ。  ふむ、これが百発百中で出来るとしたら...
朝の食卓

 弟を背負った母は私の手を引いてその坂を上った。私はなえた右足を庇いながら引きずられていく。 もっと右足を使えと母がしかる。 下りは楽だが下れば上りが待っている。 そうして日に幾度上り下りをくりかえしたことだろう。 看護師だった母には機能回...
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叱られて

 私には二つ違いの弟がいた。 仲のよい兄弟だった。 そのころ、父親はまだ充分におそろしい存在だったが、しかし、男の子にはいたずらが仕事のような時期もある。 怒鳴られ、殴られしながら性懲りもなく、二人して悪さを繰り返していた。 あれはなにをや...
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女友達

 そんなことがなかったおかげでいまだにいい関係が続いている女友達がいる。家が近かったから、子供のころにも一度ならず遊んだはずだが、中学で初めて同じクラスになって、いつの間にか姉弟のように親しんでいた。私のどこかに母性本能をくすぐるものがあっ...
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父の年

 わが町には長寿番付なるものがあって、大相撲よろしく、年齢順に東西の横綱、大関とふりわけられた氏名の一覧が年に一度正月に配られる。 父の名前が前頭下位に入って以来、毎年、少しずつ順位が上がるのを見るのがひそかな楽しみになった。 それでつい、...
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何でだろう

 「何でだろう」と1人が言った。 「どうも最近、かみさんが怖くてな。妙によそよそしい態度が続くと、離婚でも切り出されるんじゃないかと、どぎまぎする」 「そりゃあ、おまえの行いが悪すぎたからだ。せいぜい、いじめられろ」。もう1人が、すかさず突...
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車いす

 札幌ドームでは案内の女性が私を見て、「けっこう歩きますけど」と言った。 大丈夫だとは思ったけれど、団体での見学だったし、息子がついていたこともあって、あえて無理はせず、車いすに乗ることにした。 私は両足に障害があるが、ずっと肩ひじ張って生...
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