エッセイ

偕老同穴

 「ねえ、偕老同穴(かいろうどうけつ)って知ってた?」と聞くから「一緒に年をとって最後には同じ穴に眠る、だったかな。夫婦仲むつまじいという意味の言葉だったと思うよ」と答えながら、ふと見ると女房は笑っている。 どうも、いつもの知ったかぶりを試...
エッセイ

雑煮雑感

 女房の実家で最初にその雑煮を出された時にはさすがに当惑した。 煮崩れたどろどろの野菜の中にもちが見えかくれしている。頭もしっぽもついただしこもそのままで二、三匹は入っているようだ。どこぞの郷土料理なのだろうか。それにしても御馳走の体裁がな...
エッセイ

幕あい

 突然書こうと思った。十月の初めのことだ。どうして今どき、そんな気持ちになったものか、天命などを持ち出すとやっぱり笑われるのだろうか。 私は自他共に認める文学青年で、若い頃には当然詩や文章も書いていたわけでそれは当時、それなりの評価も受けた...
エッセイ

サボるⅢ

 三年の三学期なんて十日も登校日があっただろうか。もう行かなくてもいいようなものだと思われたけれど最後の最後におかしなチャンをつけられるのも嫌だったからとりあえず登校すると待ってましたとばかりに担任から呼び出しがかかった。 職員室に顔を出す...
エッセイ

サボるⅡ

 死後、自分の支配を離れた肉体の存在について私は苦慮していた。 縊死にしろ、服毒死にしろ、死ぬと筋肉は弛緩する。すると鼻汁、唾液、大小便の類が体外に漏出する。 目を見開き、唾液を垂らして、下半身を汚した私の死体。それは今、身を置くこの現実よ...
エッセイ

サボるⅠ

 小学校は皆勤で通した。その年は五百人を越える卒業生の中でこの栄誉を受けたのは三人だけだったような記憶がある。母親の意地だったのかもしれない。熱があろうが腹が痛もうがとにかく学校へ叩き出された。登校拒否なんてことは思いもしなかった。ただいじ...
エッセイ

犬の名前(日本篇)

 日本人に最も膾炙した犬の名前と言えばやっぱりハチ、忠犬ハチ公だろうか。渋谷駅前にあるあの銅像の犬のことだ。東京帝国大學農学部教授上野英三郎とこの秋田犬の物語は本になったり映画になったりしているからあえて説明するまでもないだろう。文字通り喪...
やきもの

柿右衛門

 十四代柿右衛門の講演を聞く機会があって息子と出掛けた。 開演十五分前に会場に入ったが、すでに満員、どうせ同業者か学生ばかりだとの思惑は外れて着飾った中年過ぎの女性がやたらに目につく。 すごいな、これみんなファンかと息子にささやくと柿右衛門...
エッセイ

もしもピアノがひけたなら

 音楽はまるで駄目だ。演歌なら一、二曲は何とかはずさないで歌うことが出来る。どうしても人前で歌わなければならない時にはそのとっておきの一、二曲を使いまわす。調子に乗って他の歌に手を出すと周囲が露骨に白ける。それ程、場の空気が読めないわけでは...
趣味のことなど

レッドクリフについて少々

 レッドクリフを観た。大ヒットだというが、さもありなん。封切3週間後の夜だったにも関わらず観客は少なくなかった。期待するとはずすジンクスを勝手に作ってしまったので気がもめたが杞憂だった。監督のジョン・ウーが自信たっぷりにゆったりと演出し堂々...
やきもの

三つくり

 一土、二窯、三作り、と言う。よい焼き物が出来る条件を並べたものだ。窯屋は一窯、二土、三作りと言ったりする。焼きものだろう、何てったって焼く窯だろうなどと力む。 作り手である私たちにはやっぱり作りが一番だと思うところがある。備前の土を使って...
エッセイ

泣く

 年のせいかめっきり涙もろくなった。もともとそういう傾向があったところにもってきてこの老化現象だから実にしばしば泣く。 新聞を読んでいて子供の事故死などという小さな記事に出会ったりするとぐっとくる。嘆き悲しむ親の姿が目に見えるような気がする...

「はるかな国の兄弟」あるいはリンドグレーン小考

 「長くつ下のピッピ」が娘はお気に入りでよく色違いのくつ下を左右にはいて得意になっていたものだ。娘と同じ本を読んで感想を話し合ったりしていた時期のことだからせかされるままとりあえず読むには読んだが私にはそのやかましさが鼻についてあまりよい印...
エッセイ

岡のけんちゃん 2

 犬がうまく納まったとわかるとけんちゃんは足繁く通って来るようになった。鎖で繋ぐような飼い方をしちゃだめだよ、これはいい犬なんだからさ。鎖でつなぐと首のまわりの毛がこすれて、みすぼらしくなる、骨格を狂わせる原因にもなる、そう言われれば言われ...
エッセイ

岡のけんちゃん 1

 岡のけんちゃんは犬猫屋だったがどう考えたってそれだけでは食べていけそうもないから他にもいろいろやっていたのだろう。だけど他のいろいろの事は知らない。犬を買いたいと思い知人たちのつてをたどっていたらやってきたのがけんちゃんだった。素人には見...
エッセイ

やっぱり犬が好き!?

 犬派か猫派かということであれば断然犬派だ。もっともどんな犬でもよいわけではなく、グレートデンやドーベルマンなど何か日本語で命令しても無視されそうで一歩引く。かわいい娘さんがおでこにリボンなんかつけたチワワを抱いているのを見るのは微笑ましい...
やきもの

コテ

旅行

増毛へ 3

 国稀酒造は明治15年(1882年)創業だからかれこれ130年になろうかという道内屈指の伝統ある造り酒屋だ。創業者、本間泰蔵は新潟県佐渡の人、裕福な仕立屋の三男として育ったが24歳の時に来道、小樽をふり出しにほぼ10年、33歳にしてすでに自...
未分類

増毛へ 2

 増毛は終着駅だ。ホームの先で線路は途切れ、いかにも車止然とした車止がここで写真をお撮り下さいと言った感じで設置されている。一瞥してやり過ごそうとしたが声がかかり写真。とりあえずスポンサー付きの身だ。 十数人程の降客があったはずだが、そんな...
旅行

増毛へ(1)

 JR北海道に“ライズ”という広報誌がある。そこから突然、“ぶらり一日旅”に出演してもらえないかと電話がきた。 JR北海道には土・日・祝日限定の“一日散歩きっぷ”というのがあって決められた範囲内であれば普通・快速列車の自由席が一日、乗り放題...
やきもの

職人

 私は20代も半ばを過ぎてから内弟子に入ったのでそこは自分よりも年若な“職人さん”ばかりだった。 職人さんとは内弟子を卒業して、一通り焼物の仕事をこなせるようになった人のことを言う。工場に来て親方からロクロ挽きなど賃仕事をもらう、言われた仕...
趣味のことなど

読書依存症

 読書家という職業がないので仕方なく陶芸家をしているが、本を読んで暮らしがたつならどんなに幸せだろう。 子供の頃から本ばかり読んできた。本を読んでいると楽しかったし幸せだった。私はいじめられっ子で毎日のように泣かされていたから現実からの逃避...
やきもの

縁起(げん)をかつげば

 いまだ人知が及ばぬところがあるせいかもしれない。焼きものの世界では験かつぎ、忌ぎらい、迷信の類がずいぶん多いような気がする。 その一つ一つに気を配っていたら身動きが出来なくなりそうなので、大抵は知らぬふりで済ます。 それでも窯の奥には神棚...
やきもの

ロクロ

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