タケⅥ

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半荘四回の約束で私たちのゲームが始まった。
 場が変わっても男はそのままツキを持ち込んで一荘、二荘とらくらくトップを取った。
 私とタケはしのぎにしのいでようやく二着、三着にすべり込んだ。山崎と呼ばれた分厚い眼鏡の男も一人で雀荘に出入りするだけの腕はもっているのだろうが何せ相手がツキすぎている。

 三荘目、南場の三局、オーラス前でタケの親の時にようやくサインが来た。二筒待ち、うまく男をはめろということだ。六筒を切るとタケはリーチをかけた。山崎は無難に現物を切る。私は三筒、とりあえずスジだ。男も現物切り。男はすでにトップを確信しておりベタ死にで降りているという様子だった。
 次のツモ、タケは七筒をツモ切りした。四筒がスジになって切りやすくなった。男もすかさず四筒を切る。これを見て私は男が罠にはまったと確信した。

 タケが南をツモ切りして、山崎は七筒。私の番、私は五筒を通すとリーチをコールした。手のうちはぐずぐずの空リーチだった。
 追いかけリーチと五筒と、さあ仕掛は整った。案の定男は一瞬、考えた。出ろ、出せ、そして切ったのが二筒、一呼吸おいて、ロン、タケがコールした。
 リーチ、一盃口、ドラドラ、バンバン、親満だった。
 タケと男が点棒をやりとりする隙に私は何気ないふりで手牌を崩すと河に投げ込んだ。山崎のおやっという気配を感じたので、しかしあなたはかたいですねぇ、声をかけて気をそらした。
 ひょっとすると、あなたも打ちまわしながら聴牌とってたんじゃないんですか。
 正式のルールではリーチの場合上がれなくても開いて見せて聴牌の確認を受けなければならないことになっている。

 死に打ちはきつい。男のツキもそれで落ちた。
 トップが入れ替わり、勢いづいたタケが連荘して、それを確実にした。
 最後、ザン・キュウで上がって私も何とか浮く。
 四荘目はタケの一人舞台になった。私は目立たぬよう、沈まぬように気を付けて最初から手を造らないことも多かった。
 もう半荘つきあえ、清算をすませながら男が泣いた。
 深みにはまるだけだぜ、言いたかったがよした。
 見事に相手ははまったが、思ったような快感はなかった。

 博奕で勝ち続けるには結局、いかさましかない。一通り、マージャンを覚えた学生が次に考えることはほぼ同じだろう。だから私たちのような二人連れもけっこういたと思う。
 その日、私たちが卓を囲んだのはそんな感じの二人連れだった。意地の張り合いのようなガチンコ勝負で互いに牽制するから勝負は動かない。
 普段、私たちは半荘四回までと決めていた。集中力と注意力は三、四時間が限度だからだ。それを半荘、延長したのは私たちの若さだった。何の得にもならないことは皆がわかっていた。そして結局疲労が倍増しただけで雀荘のおやじが少し儲けた。

 終電車に乗り遅れた客を方向別にまとめて、乗り合わせでタクシーを出すというシステムが成立しているとは知らなかった。さすがは東京だ。単純計算で四分の一、電車よりははるかに高いが一人でタクシーに乗ることを考えるとはるかに安い。
 おかげで、かろうじてアパートに戻ると入り口前に赤い車が停まっていた。
 運転席をのぞくと棚沢が眠っている。かかわるのは大儀だったが、この状況ではやり過ごしたからといってそのまま見逃してくれるはずもない。覚悟を決めて、ガラスを叩くとおうと棚沢は飛び起きた。

 遅いなあ、どこをほっつき歩いていたんだ。俺はずっと待っていたんだぜ。
 朝までに原稿用紙十枚分のレポートを書けと棚沢は言った。
 そんなこと無理だよ、無理に決まっているだろう、今、何時だと思っているんだ。だいたい俺はもう半分、死んでいる、だがそれで済むのなら、こんな時間まで待ってなんかいないだろう。
 頼むよ、頼む、恩に着る、明日、レポートを提出しなかったら出席日数が足りないから卒業できないって、泣いているんだ。
 お前の彼女か。
 いや俺の婚約者だ。
 とりあえず奴の家に行く、私を車に押し込むと棚沢は夜の街を疾走し始めた。
 深夜、さすがの東京もつかの間、眠りの中にある。
 お前最近、タケとつるんでいるのか、ふいに棚沢が聞いてきた。
 私は返事をためらった。
 あいつはよしとけ、お前にさばけるような相手じゃない。

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