「96時間」が面白かった。
ひさしぶりに映画を堪能した気分だ。
それこそ息をつくひまもない感じだった。
だからといってせわしいのとも違う。
フランス映画らしくプロローグとエピローグには全体の3分の1の時間もとっている。
導入部の説明的な場面が丁寧に描かれるので過激な展開にもあまり違和感を持たずについていけるのかもしれない。たくみな伏線と要所ごとのディテールの積重ねが所詮、絵空事をそうは思わせない緊張で引っぱっていく。
だとしたらまず脚本をほめるべきか。
「ニキータ」、「レオン」のリュック・ベッソンがロバート・マーク・ケイメンと組んだ作品は「トランスポーター」「ダニー・ザ・ドッグ」など少なくないが、いずれも出来のいい娯楽作としてヒットしている。
しかし、枝葉をはずして、本筋だけで物語を組み立てるのはけっこう冒険でもあったはずだ。それをみごとにやってみせた。さすがというほかはない。
監督、エール・モレルもこれが2作目とは思えない才能だ。
撮影監督上がりらしくシャープな映像と、テンポのいい展開はみごと。己らカメラを手に取ったとも聞くが拷問シーンのスムーズなレンズの移動などあざやかなものだった。
こけおどしのCGや大音響にたよらない作品造りにも好感がもてる。
次回作は東京が舞台とのうわさもあってなんとも先が楽しみなことだ。
主演、リーアム・ニーソンは「シンドラーのリスト」などで日本でも識られた役者だがどちらかといえば地味な演技派の印象が強い。
50才を過ぎてからのこのはじけかたには誰もがおどろいたのではないか。しかしこれはリーアム・ニーソンの映画だった。見終わってリーアム・ニーソン以外の役者の名前が浮ばない程のはまり役だった。役者の力量とはこういうものか。
物語はいたって単純、旅先のパリで拉致された娘を元C・I・Aの工作員だった父親が救出する、ただそれだけ。96時間とは救出できる可能性が残るタイム・リミットで、その為には家宅侵入、自動車泥棒、殺人、なに一つ逡巡することなく実行する。
スティーブン・セガールの乱造する映画となにも変わらないシチュエーションなのだが、逆にいえば脚本・監督・主演が変わるとこうも違った作品も出来る。
この映画はアメリカでは六ヵ月にわたってヒットを続けた。
ブッシュ政権下にアメリカ人が抱いたフラストレーションを開放させるものがあったからだとの説もある。
娘をいたぶろうとしていたアラブ系らしい富豪を問答無用で撃ち殺すあたりをさしているのだろう。そういえば殺戮のシーンでは銃はかならず観客の目線で撃たれているのはたしかなことだ。
製作者側にもはつきりとそういう意図があったかどうか。
おもしろいものは誰が観てもおもしろいと思うのだが、まあ、考える人はいろいろと考えるものだと思う。
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