レッドクリフⅡについて少々

 失敗のしようがない映画というのがあるような気がする。
 たとえば日本でなら忠臣蔵。あらすじは皆が知っている。皆が好きで映像で観たい気持もある。今度の吉良はあの役者かなどと出来る前から盛り上がる。金をかければかけるだけ大作にもなるだろう。
 しかし物語から大きく逸脱できない枷がある。お約束を守って、エピソードを網羅して、だから当然評論家の高い評価は受けがたい。
 中国人にとっての三国志演義もおそらくそのようなものなのだろう。赤壁の戦いはそのエピソードも含めて、すでに頭の中にすりこまれている。孔明はここで、こうやって、周瑜はこうしたはずだ、その分、脚本、演出の裁量は狭められる。
 そういう制約の中でジョン・ウーはよく健闘したと思う。
 二時間半近く中だるみもせずに観せきる力量はたいしたものだ。

 前半をヴィッキー・チャオの尚香、後半をリン・チーリンの小喬とタイプの違う二人の美女を狂言まわしに使うことで殺伐とした物語に余韻ができた。おかげで名にし負う英雄、豪傑たちがいまひとつ精彩をかく面も否定できないが、その分、リン・チーリンの美しさをたっぷりおがませてもらったのだから文句はない。

 トニー・レオンも金城武もどちらかというと、受けの役者さんだ。本来は主演の横にいて、輝く人たちだと思う。顔のアップがやたら多いのはジョン・ウーもその辺を意識してのことだろうか。

 火薬を使わせたら、ジョン・ウーはさすがにうまい。本人もそれは充分承知しているはずだ。後半の大戦闘シーンなど図にのってたたみかけてくる。私などはいささか食傷気味だった。
 
 残念なことの一つはレンズの解析度がよすぎるせいか、軍船などいかにもミニチュアと思わせる場面が少なくない。谷崎潤一郎の陰翳礼讚ではないがかっての映画は不鮮明な映像がかえってリアリティをかもし出していた。七人の侍、しかり、ゴジラ、しかり。そのあたりを検討してみる必要はあると思う。

 終盤、主役級の男たちが顔をそろえて三巴、四巴のバトルをくりひろげる。ジョン・ウーの自己主張だろう。砲煙の中から立あらわれる男たちの姿は自作へのオマージュだったかもしれない。

 男くさい活劇を得意としてきたジョン・ウーだが今回の作品を観ていて、案外、女性映画をとらせても上手にこなすのではないかという印象をうけた。
 リン・チーリンを主役に使ったしっとりとしたメロドラマなど観てみたいものだ。

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