「何でだろう」と1人が言った。
「どうも最近、かみさんが怖くてな。妙によそよそしい態度が続くと、離婚でも切り出されるんじゃないかと、どぎまぎする」
「そりゃあ、おまえの行いが悪すぎたからだ。せいぜい、いじめられろ」。もう1人が、すかさず突っ込んで言う。
「じゃあ、おまえのところは大丈夫か」
還暦をすぎた男が3人、居酒屋で飲んでいる。
「日ハムは最後の最後で残念だった」と、しばらくは盛り上がり、「鳩山も何か、もたもたしだしたな」としたり顔で政治談議もした。しかし、妙な具合に連れ合いの話になった。
「いや正直言うと、おれも怖い。おれなんざ、何だかんだといったって、結局、いいようにかみさんに、あやつられてきたんだけどな。ふと、かみさんの顔色をうかがう自分に気付いて嫌な気分になる。何でだろう」
「おい、おまえはどうだ」。ふいに話をふられて、「おれかぁ」と私はすっとんきょうな声をあげた。
受けを狙うか、調子を合わせるか。一瞬、判断がつきかねた時、1人の男の携帯電話が鳴って、話は終わった。
よかった。私だって女房に「あんまり、おかしなことを言いふらすんじゃない」とくぎを刺されてきたところだった。
女房は怖い。だけど、何でだろう。
(2009年12月9日 北海道新聞朝の食卓掲載分)
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