エビス

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 イザナギ、イザナミの最初の子をヒルコという。ヒルコは生まれながらの不具だった。そこであし舟に乗せて川に流す。
 古事記にそうある。
 都合の悪いことはなかったことにしてすます性向は当時からすでにあったようだ。
 知ったかぶりのついでに言えばこれが水子の語源になるとの説もある。
 子棄て、子殺しはいわば日本開闢以来の伝統だからなにも現代の風潮に目くじら立てることもあるまいよとつい脱線した言辞をはいて、私は女房の逆鱗に触れた。
 女房は常に絶対の正義に立つ人である。そんな深刻な問題におちゃらけなどは許せないのだった。
 恐ろしくて言いそびれた話の続きをすれば、そのヒルコが長じてエビスになる伝説もある。
 だから立姿のエビスはいない。宝船のエビスだって鯛を抱えてかならず座っているだろう。そういう意識で見るとその名前のビールのラベル、あの足のかっこうもなにかちょっと不自然なのがわかるはずだ。
 エビスの、あの笑顔に隠した屈辱、怒り、絶望、哀しみはけして他人事とは思えないわけで……。
 なに、要は私がそのビールを愛飲する正当性を理屈づけて説明したかっただけのことなのだが、やっぱりちょっと方法論に問題があっただろうか。

(北海道新聞 朝の食卓 2010年11月13日掲載)

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