私には二つ違いの弟がいた。
仲のよい兄弟だった。
そのころ、父親はまだ充分におそろしい存在だったが、しかし、男の子にはいたずらが仕事のような時期もある。
怒鳴られ、殴られしながら性懲りもなく、二人して悪さを繰り返していた。
あれはなにをやって叱られたのだろう。
女房にもよく指摘されることだが、私には子供のころから妙に強情なところがあって、おかしなところで突張るから、それで事態を悪化させたのかもしれない。
それでも晩飯をとりあげられ、外にたたき出されるとなるとさすがにこたえる。
あてもなく家のまわりをさまよいながら見るともなく見上げた夜の空、あの満点の星を私は今も忘れない。
大空にちらばった星たちがやがて一つの糸でつながっていき、ある姿を形づくるさまを私たちは魔法にでもかけられたような気持で見つめていた。
北斗七星がゆっくりと柄杓の形に集約されていき、おどろく程の近さにせまっていた。
私たちはしっかりと手をにぎりあいながら見上げていた。つらかったがそうしていると泣かずにすんだ。
私たちは世界にたった二人の兄弟だった。
その弟は40才で死ぬ、もう20年も前の話だ。
この頃はようやくそれ程も思い出さずにすむのだがたまに息子の後姿に弟を見る。
(北海道新聞 朝の食卓 2010年5月掲載)
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