テレビから目が離せない事情もあった。背後にあるはずのごみ箱めがけて、前をみたまま丸めたティッシュを肩ごしにぽいと放った。
するとどうしたあんばいか思いもかけず、その一投が見事に決まってしまったのだ。
ふむ、これが百発百中で出来るとしたら、ちょっとした芸だななんて考えたわけではない。しかし、その快感が忘れられず、わざわざごみ箱からティッシュを拾い出して挑戦している。
あれをビギナーズラックとでも言うのだろうか。今度はそうやすやすと入らない。
再度ごみ箱の回りに散らばったティッシュを集めて前を向こうとした瞬間、ふと気配を感じて台所の方に目をやると女房が声をころして笑い転げていた。
まずい、最初から見られていたとするとこれは相当にまずい。
われに返ると自分でもばかなことをやっていたと思わないわけではないから、すごすごとティッシュをごみ箱に戻して、テレビを見ている格好は作ったが女房からの一言を身構えて待つ。
案の定、お父さん、ときた。
お父さん、そこまでしたら、せめてもう一度、決めるまでは続けなきゃ! なんと小憎ったらしいいいぐさだろう。
私は屈辱にふるえながらじっと耐えるしかないのだった。
(北海道新聞 朝の食卓 2010年7月27日掲載)
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