隣りの芝生

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 家の廻りだけ春が遅いような気がする。
 日陰には分厚く雪が残るし、クロッカスも一塊、二塊がようやく紫色の花をつけたところだ。
 初夏ともなると、あたり一面、蕗の葉でおおわれて法螺吹き屋敷の面目躍如といった具合になるのだが今はふきのとうもまばらで勢いがない。
 今どきの車には温度計を内蔵したものがあって、それでみると旭川市内とくらべてここらあたりはどうも常時五度ぐらい温度が低いようだ。
 北海道といっても旭川は盆地のせいか夏の暑さは馬鹿にできない。その日の全国最高気温を記録することだってあるぐらいだ。
 冬、きびしい分、夏は過しやすいわけで差し引きすると零かと普段は思っているがこの季節にかぎってはそんな鷹揚ではいられない。
 北国に暮らす者にはなんとも春は待ち遠しい。
 周辺の農家だって、同じ気持で融雪剤をまくのだろう。
 融雪剤の効果はめざましく、まいたところの雪だけが底が抜けたように消える。しかしあんな煤のできそこないのようなもの、きたならしくてとても家の廻りにまく気にはなれない。
 隣りとくらべても春が遅いのはそのせいかと理性では納得しても気分は今一つ釈然としない。
 去年の葭が倒れたまま、ひからびて、ちぎれた葉があたりを転がっている。
 木瓜もつつじも冬の間に野ねずみにかじられて白骨のような茎を曝す。これではとても花はつけないだろう。
 どうもなにか面白くない。なにもかにもがみすぼらしく、うすぎたない。
 雪がとけて、若芽がふきだすまでのこのはざかいの時間は見ないですませたらそれにこしたことはないのだが、身体が勝手に庭にいく。
 隣りの庭がどうにもよく見えてしかたがない。

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