私は連れ合いを人に紹介する場合など、最初からごく自然に「女房」といってきた。
それであたりまえだと思い込んでいたふしがある。
しかし、そう呼ぶことがけして一般的ではないことを最近になって知った。
いまさら心外だが、女房もあまり好きではなかったそうだ。
そういえば父も母をそんな風には呼ばなかったような気がする。
なんと言っていただろう。
あるいは「うちの奴」だったろうか。
どこで「女房」が出てきたものか、考えてみても中学の古典で習った弘徽殿の女御をにょうぼと読み違えて記憶したいたぐらいしか思いあたらない。
もっとも私はこの言い方が気に入っているし、いまさら変えるつもりもないから、女房にも我慢してもらうしかないが、それでは世間一般ではなんと呼んでいるのだろう。
ごく無難なところではやっぱり「妻」に軍配が上がるのか。
これは老若、場所を選ばないから使い勝手はいいかもしれない。
しかしいかにも優等生的で、いま一つ、工夫が足りない。
偉そうなふうが抜けないじいさんがサイと音でいうのを聞いたことがあるが、これはやっぱりある程度貫禄が必要で若い人には無理かもしれない。
「愚妻」なる言葉ももうほとんど死語だろう。
女を後に傅かせてこう宣まえるような男はもういない。
「家内」というのもよく耳にするが、これも若い人には使いきれないのではないか。
「ウチのカミさん」は老若使って、違和感はないがくだけた感じがある分、正式の場面ではどうだろう。
最近ときどき耳にする「うちの嫁」なる言い方は関西あたりの芸人が使い出して、テレビを通して全国に蔓延したもののようだが、これには私は生理的な嫌悪を感じる。
だいたい嫁などとは舅、姑が使う言葉だったはずだ。
そのうち嫁の方でも「うちの婿」などと言い出したりするかもしれない。
「ワイフ」というのも戦後一時期、世間を席巻したものだが、どういうわけかパパやママほどには定着しなかった。
英語つながりでいえば習い始めの頃ベターハーフなる言葉を知った。
よい言い方だと記憶しているがこれは今日、本国でもあまり使われないそうだ。
言葉の生命もわからない。
中国では「老婆」「愛人」という。
字面からするとまるで別のイメージが浮ぶ。
同じ中国語を使う国でも台湾では「牽手」というそうだ。手をつなぐという意味で男女共にそう呼び合う。
なにかちょっといい感じだなあと印象に残っている。
近々、息子が結婚する。
自分の連れ合いをなんと呼ぶようになるのだろう。
ひそかな楽しみの一つではある。
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