エッセイ

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パッチ

 標準的にはメンコが正しいのだろうが、バッタ、ツタンケなど各地方ごとに独特の呼び方もあったという。 私たちはパッチといった。 北海道は広いからどこでもそうだとはいいきれないが居酒屋で雑談の合間に聞き及んだかぎりでは北見でも余市でもやっぱりそ...
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新年

 どうしてこの日を年の始めと定めたのかといったことを考えている。 とりあえず掃除をすませ、鏡餅も飾った。風呂に入って髭もあたった。 いささか腹もへったし年越しの小宴が待ち遠しい。 しかし女房は依然、気忙しく立働いている。思いどおりに事が運ん...
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「棚ぼた」顛末記

 それであんたは綾子とは親しいのかと男はいった。 いきつけの居酒屋だった。 男とも目顔で挨拶を交す程の面識はあった。 だが三浦先生をいきなり綾子などと呼び棄てにするとはなんだ。 私は不快な感情を露骨に顔に出したかもしれない。 作品展の案内葉...
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三浦先生のロクロ

 綾子先生は本当のところ、どれぐらい焼きものに関心がありだったのだろう。 思いがけない知遇を得るきっかけもおそらく私が陶芸家であったことと無関係ではなかったと思う。 私が義父の土地を借りて独立したのは昭和51年6月のことだが、工房が先生のお...
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浮気の愉しみ

 浮気は文化などと居直るつもりはない。 残された時間もそれ程、多いわけではなく、今、予定している計画だって、おそらくその半分も達成できずに終るだろう。 時間の貴重さは身に浸みてわかっている。 年齢相応の分別も弁えているつもりなのだが、どうい...
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春の愁い

 工房の周りにはかなり広い土地がある。 いつか、木を植えよう、花でもいいと思いながら結局、手を付けることはなかったからおそらくこれからもそのままだ。 もう30年を過ぎたが毎春、先住者が残した福寿草、野良生えの水仙がわずかに顔を出す。 庭とい...
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東日本大震災

 3月15日、火曜日、夜。 比較的おだやかな気候だが気持は落着かない。 東北地方は今夜あたりから冷え込むという。 地震発生から5日、被災地ではいまだ茫然自失の状態が続いているようだ。 体験の過酷さを思えば無理のないことかもしれない。 それに...
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東日本大震災

 最初は東北大地震といっていたはずだ。 東日本大震災と東北・関東大震災、呼称がいまだ統一されず、報道機関の好みで使いわけられているようだが、どう落ち着くのだろう。 3月11日、金曜日、時おりふぶいたりするものの、気温はむしろ暖かめだったかも...
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 おじさん、これなんて読むかわかる?中学生になったばかりの姪に紙片をつきつけられた。 海という漢字が5つ並んでいる。 法事の席でひととおり酒がまわってようやく場がくつろぎ、雑談にも興が乗ってきたところだった。 親戚の間では私はもの知りで通っ...
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ケータイ

 携帯電話は持つことがあたりまえの時代になったようだ。 かっては町のいたるところにあふれかえっていた公衆電話がどんどん姿を消しているのも結局利用者がいないからだろう。 おかげで私などがこうむる迷惑は計りしれない。家にちょっと連絡をとりたいと...
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風邪のことなど

 牛と風邪は引くなという。 牛は依怙地で引かれると突っ張る。下手をすると後退さる。 牛を歩ませるには尻の方から宥めすかすように追ってやる。 牛追いと呼ぶ所以だ。 牛にはまったく関わりないがこの感じはなんとなくわかる気がする。 風邪の場合も引...
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複本問題

 副本を広辞苑で引くと、①原本のうつし、そえしょ、複本 ②「法」正本と同一事項を記載した文書、正本の予備、または事務整理のために作成、と出ている。 しかし、図書館用語として使う場合は複本とは同じ内容の本が重複して存在することをいう。 昔から...
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なんと呼ぶ……?

 私は連れ合いを人に紹介する場合など、最初からごく自然に「女房」といってきた。 それであたりまえだと思い込んでいたふしがある。 しかし、そう呼ぶことがけして一般的ではないことを最近になって知った。 いまさら心外だが、女房もあまり好きではなか...
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占い

 血液型占いというのが一時大流行した。 多種多様の人間を4つに仕分けるのはいささか乱暴だがその単純明快さが受けたのかもしれない。 当時、スナックなどで飲むときまって血液型を聞かれたものだ。 何型だと思う?と逆に問い返すと待ってましたとばかり...
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師匠

 師匠の釣りは世間一般の釣り好きとは少し違っていたかもしれない。 釣りが出来ればそれでいいというようなところがあった。 ちょうど釣りを覚えたての小学生が学校から帰ると玄関にカバンを投げ棄てて、あわてて一本竿とバケツをかゝえて川に駆けつける、...
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級友再会

 思いがけなく東京の、それも表参道で作品を展示する機会を得た。地域力宣言2010という全国商工会連合会の催事で、全国から39社、私のところは北海道を代表する形で出品する。 どのような基準で選考があったものか、ともかく望外のことだった。 しか...
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ピストル

 たしか巻玉といったような気がするがはっきりしない。 少量の火薬を等間隔に埋めて、帯状に巻いたもので10円玉程の大きさがあったろうか。それ用のピストルに仕込んで撃つとパチッとはじけた小さな音が出た。 引鉄に連動して帯を繰り出す仕掛けがあって...
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オートバイ

 親父のオートバイはたしかメグロといったと思う。 あれで250ccもあったのだろうか。 古い、鉄の塊のような重く頑丈な造りだった。 中古で手に入れた親父はピカピカに磨き上げ大事に大事に乗っていた。 そのオートバイを夜中に引きずり出して乗り回...
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酒はそこそこ…

 酒はずいぶん飲んできたが本当に好きだったのかどうか、最近ちょっと疑問に思うことがある。 どうも酒が好きなのではなくて、ただ酔って、少し軽くなった頭と口でだらだらととりとめもない会話を続けるのが楽しくて飲んできたのが真実ではないのだろうか。...
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妄想片

 疲れているのだろう。 このごろ“蒸発”に奇妙な魅力を感じている。 ある日、突然、直面する現実を拒絶する。一切を棄てて身を隠す。 死ねばそれまでだが死ねないところがいかにも人間臭くていい。 この言葉に本来は無関係な失踪の意味が付加されたのは...
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自己啓発ごっこ

 自己啓発のワークショップなどでよくやらされるゲームのようなものの一つにきめられた時間内に自分のやれることをできるだけ沢山、書き出すというのがある。 やれることならなんでもいい。 立てる、歩ける、カーテンが引ける、電燈のスイッチがひねれる・...
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厨房の誘惑

 学生のころはアパートに住んだから、当然、炊事、洗濯、掃除、なんでもやった。 親は“男子…”と考えていたかどうか、とりあえず家で強いられることはなかった。見よう、見真似といっても特に関心があったわけではないから意識的に観察したこともない。 ...
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尻の下

 尻に敷かれたふりをして遣り過ごせば家の中は万事、丸く納まる、結婚したてのころ、天啓のようにそう悟った。 事実そうだった。 入学のお祝いはいくら包む、香典はいくら、女房には女房の思わくもあるのだろう。まあ女房の思わくの通りでいい。 子供の習...
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大工の話

 子供の頃、近所で家の新築工事が始まると、私はもう忙しくて大変だった。 学校から帰ると、なにをさておいても現場に駆けつけた。 あたりには今までになかった活気が満ちている。 香わしい木材の匂い。 棟が今、上がるところだ。 男が二人、左右から柱...
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