雨が降っている。なんともうっとうしい。
雨は嫌いだ。とにかく無難に一日やりすごそう、そう自分に言い聞かせて、朝、家を出たのだった。
しかし前を走る若葉マークの小型車が右折の車をかわせなくてぐずぐずしているうちに信号が赤に変わった。それでなくても朝は気がせく。ちょっと舌打ちでもしたい気分だ。
タイミングが一つ狂うとどうもすべての調子がおかしくなるらしく、先々の信号が目の前で赤になる。今日はなんともツイてない。
雨の日は車を使用する人の数も増えるのだろうか、なんとかたどりついた駐車場も満車状態で奥の方にようやくスペースをみつけて車を寄せていくと、すんでのところで脇からきた車が鼻先を突込んでいく。
ビルに入るといい具合にエレベーターが止まっている。
上着の雨を手ではらいながら急ぐと人を小馬鹿にしたように目の前でドアが閉る。
気のきかない奴らだと一瞬、腹が立つ。
訪ねた人は今日は休み、おいおい、一週間前にアポをとって、俺はその為にわざわざ出掛けてきたんだぜ。
予定をはずされて、まあちょっと時間は早いけれど昼飯でも済ませておこうと入ったラーメン屋は、それはもう最悪、今時こんなものでよく商売が出来るなあとむしろ関心させられる始末。
一事が万事、こんな調子でへとへとになってようやく夕方、たまに本屋でものぞいていくかと信号を待っていると、見知らぬ女の人が突然、あの、ツイていますと耳元でささやいた。
俺は今日、一日、まったくツイていなかったんだぜ。
なにかおかしな新興宗教のキャッチかと、むっとして、見返すとなにやら意味ありげに目線が下の方へ。
つられて、ズボンを手でさぐっていくと、たしかに得体の知れないものがお尻のあたりにべっとりと、ツイていた。
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