酒はずいぶん飲んできたが本当に好きだったのかどうか、最近ちょっと疑問に思うことがある。
どうも酒が好きなのではなくて、ただ酔って、少し軽くなった頭と口でだらだらととりとめもない会話を続けるのが楽しくて飲んできたのが真実ではないのだろうか。
いまさらながらそんな気がする。
元来、一人で飲むことはなかった。一人で飲み屋に入ったためしはないし、厭な気分のとき眠れない夜など、酒の力を借りようとしないわけではなかったがまったくはかがいかなくて往生したものだ。
酒は強い方ではないという自覚は早くからあったが、それでも若い頃にはまわりに気を使い、場を盛り上げようと焦るあまり一人先走って悪酔いしたりしていた。
寝て起きるともう前の夜のことはころりと忘れてしまう人がいる。あれは芸なのかと疑ってもみたがどうも嘘でもないらしい。なんともうらやましいかぎりだ。
いかに深酒しようとそこで繰り広げた醜態はしっかり記憶に残ってしまうから翌朝は身体もつらいが精神的にも相当きつい。
頭をかゝえて蒲団の中で悶々ともう酒は止めたと幾度思ったことだろう。
それでもすぐに性懲りもなく飲みだすのだからやっぱり好きなのだと下戸には笑われそうだ。
別に好きだと認めたところで構わないようなものだが、本心を吐露すればやっぱり少し違う。
気分よく酔って会話の妙を楽しみたい、それだけで酒に主眼があるわけではない。
落語の仕方咄ではないが、実にうまそうに酒を飲む人がいる。あんな飲み方をするのが、真の酒飲みだ。
残念ながら私にはついにそんな真似は出来なかった。
そこら辺の不徹底がよくも悪くも私の酒なのだろう。
夏、私の工房がある山の中では誰に憚ることもなく気の合った仲間を呼び集めて、昼なかから酒が飲める。
炭を起して、肉を焼き、酔うでもなく醒めるでもなく馬鹿っ話に大笑いしながら日を過す。
それが楽しい。その為に日頃、働いているのだと思う。
なろうことならこれから先も、それぐらいの酒は飲めるよう身体でありたいものだ。
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