泣く

 年のせいかめっきり涙もろくなった。もともとそういう傾向があったところにもってきてこの老化現象だから実にしばしば泣く。
 新聞を読んでいて子供の事故死などという小さな記事に出会ったりするとぐっとくる。嘆き悲しむ親の姿が目に見えるような気がする。自分がもしその立場に置かれたらなどと想像する。とても正気ではいられないだろう。妄想癖も若い頃からあったもので、おかげで時間を持て余したという記憶がないが、これもどうやら真性の域に達しつつあるようだ。

 当然、テレビを観ても泣く。出来の悪いドラマだと思いながら突然つんと鼻をやられたりする。自分でもつまらないところで泣かされていると思うから、女房が一緒の時には気を使う。これ以上馬鹿にされたんじゃたまったものではない。
 その点、スポーツの国際試合の中継を見ている分には安心だ。夫婦して俄国粋主義者に変貌して、日本人がよいプレーをする度にうるうるし、勝てば泣く。まあ、大きな声では言えないが、けっこう女房もきてるのだ。
  
 俗に涙腺がゆるむと言うがやっぱり感情の回路もあっちこっち切断したり死滅したりで単純化されているのだろう。突き詰めて考えると気持ちが落ち込んでくるが考えても仕方がないことは考えないことにしよう。とりあえず年をとるのは初めての経験でそう思えばそれはそれで新鮮だ。
 還暦とはひとめぐりして元に戻るということらしい。そんな言葉を科学も医学もほとんど未発達の古代の人が発想した。しかもどうみたって若い人の思いつくようなことではない。だとしたら、この先だってけっこう馬鹿にしたものではないのかもしれないぞと思う。

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