エッセイ 夫唱不随? 「何で『ムショ』か知っていたか」と私。 「ケームショの略でしょ」と女房。 「大概の人は、そう思っている。けど、あれはやくざの隠語だ。刑務所ではコメと麦とが『6対4』の飯を食わせる。この6・4でムショになったということだ」 さっき読んだ安部... 2009.07.02 エッセイ
エッセイ グラン・トリノ、あるいはクリント・イーストウッドについて 映画のタイトルにもなったグラン・トリノはフォード社製の大型セダン、スポーティな装いで人気があった。 しかしそれも一昔前の話だ。 クラシック・カー、訳すると骨董品だろう。それに主人公ウオルトが重なる。 老いたるアメリカ、しかしグラン・トリノ... 2009.06.15 エッセイ
エッセイ 息子 息子にあとをつぎたいと切り出された時には本当に動揺した。 まったく想定外のことで、私は息子が大学に残ることを希望していた。 こんな仕事では食っていけないと思っても私自身がまがいなりにも暮らしてきたのだから、説得力にはかけるだろうと頭をかか... 2009.06.08 エッセイ
エッセイ 名刺 好きで持ち歩くわけではないがないとやはり不都合な場合があるのが名刺だろう。一方的に渡されることもないわけではないが交換が原則だから相手から差し出されて、こちらはないですますには、けっこうしどろもどろの対応をしいられる。それが億劫で外出の際... 2009.05.09 エッセイ
エッセイ 医者嫌い 医者は嫌いだ。 大上段にかまえれば人が人に対してあたかも生殺与奪の権限を持つかのようにふるまう様が不愉快だ。 技術を提供して報酬を受けるのだから医者だってしょせんサービス業ではないか。 てめえ、人から金を取っておいてなんだ、その態度は、と... 2009.05.05 エッセイ
エッセイ 隣りの芝生 家の廻りだけ春が遅いような気がする。 日陰には分厚く雪が残るし、クロッカスも一塊、二塊がようやく紫色の花をつけたところだ。 初夏ともなると、あたり一面、蕗の葉でおおわれて法螺吹き屋敷の面目躍如といった具合になるのだが今はふきのとうもまばら... 2009.04.29 エッセイ
エッセイ あな恐ろしや 「俺が浮気をするのはおまえが悪いからだ。」とあろうことか、妻を前にそう高言した男がいた。 いやおうなくその場に立ち会わざるえなかった私は驚愕し、以来その男を畏敬している。 男児かくあるべし。 それで家庭が崩壊しないのだから見上げたものだ。... 2009.04.17 エッセイ
エッセイ 鳥を見る 家の屋根にコンクリートの煙突が立つ。とうに本来の役目は終え、今は絶好のバードテーブルだ。屋根を汚すと女房には不評だが、隣の工房の窓から集まる鳥を見ていると、時を忘れる。 バード・ウオッチングが流行し始めたころには「そんなこと、人にやってみ... 2009.04.14 エッセイ
エッセイ 一日 朝は八時過ぎに起きる。七分か十分過ぎ、目は八時前に醒めている。まだ少し早いと思いながら、ふとんの中でぐずぐず、今日の予定や段取りなどを算段する。その時間がいい。 ごくまれに寝入ってしまい三十分前後になってあわてて飛び起きる。するとそのあと... 2009.04.10 エッセイ
エッセイ 苦しい時は神だのみ どうしようもない状況におちいった時には神に縋る。 「神さま、助けて下さい。私はなにも悪くはありません。」まさかそう声に出すわけではないがけっこう真剣に祈る。 すると神助がある。おかげでなんとか無難に切り抜けてこられたのだと思っている。 物... 2009.04.06 エッセイ
エッセイ 春遠からず 東京に住む娘が電話をかけてきて「会ってほしい人がいる」と言った。 とうとう来たかと思いながら平静を装い「いいよ」と答える。「じゃあ予定を立てるね」と娘。 「だけど、そんなに急がなくちゃならない理由でもあるのか」という私の声は、いささかうわ... 2009.04.04 エッセイ
エッセイ ちょっと夫婦で 札幌に用事が出来て、女房と出掛けることになった。 以前なら迷わず車ですっ飛んで行くところだが最近は運転が億劫になっている。 雪道だしな、高速料金もなあとぼやいてみせて都市間高速バスなるものに乗ることにした。JRに比べて時間は多少かかるが近... 2009.02.03 エッセイ
エッセイ “偕老同穴”余話 偕老同穴と題した文章が新聞に掲載されたのが一月三日でそれから二日後のことだ。 電話が鳴ったのは昼近い時間だった。家では電話はまず女房がとることになっている。その件でお話がと聞いた途端、どういうわけか女房はクレームだと思い込んだらしい。そう... 2009.01.15 エッセイ
エッセイ 偕老同穴 「ねえ、偕老同穴(かいろうどうけつ)って知ってた?」と聞くから「一緒に年をとって最後には同じ穴に眠る、だったかな。夫婦仲むつまじいという意味の言葉だったと思うよ」と答えながら、ふと見ると女房は笑っている。 どうも、いつもの知ったかぶりを試... 2009.01.05 エッセイ
エッセイ 雑煮雑感 女房の実家で最初にその雑煮を出された時にはさすがに当惑した。 煮崩れたどろどろの野菜の中にもちが見えかくれしている。頭もしっぽもついただしこもそのままで二、三匹は入っているようだ。どこぞの郷土料理なのだろうか。それにしても御馳走の体裁がな... 2009.01.02 エッセイ
エッセイ 幕あい 突然書こうと思った。十月の初めのことだ。どうして今どき、そんな気持ちになったものか、天命などを持ち出すとやっぱり笑われるのだろうか。 私は自他共に認める文学青年で、若い頃には当然詩や文章も書いていたわけでそれは当時、それなりの評価も受けた... 2008.12.29 エッセイ
エッセイ サボるⅢ 三年の三学期なんて十日も登校日があっただろうか。もう行かなくてもいいようなものだと思われたけれど最後の最後におかしなチャンをつけられるのも嫌だったからとりあえず登校すると待ってましたとばかりに担任から呼び出しがかかった。 職員室に顔を出す... 2008.12.25 エッセイ
エッセイ サボるⅡ 死後、自分の支配を離れた肉体の存在について私は苦慮していた。 縊死にしろ、服毒死にしろ、死ぬと筋肉は弛緩する。すると鼻汁、唾液、大小便の類が体外に漏出する。 目を見開き、唾液を垂らして、下半身を汚した私の死体。それは今、身を置くこの現実よ... 2008.12.21 エッセイ
エッセイ サボるⅠ 小学校は皆勤で通した。その年は五百人を越える卒業生の中でこの栄誉を受けたのは三人だけだったような記憶がある。母親の意地だったのかもしれない。熱があろうが腹が痛もうがとにかく学校へ叩き出された。登校拒否なんてことは思いもしなかった。ただいじ... 2008.12.17 エッセイ
エッセイ 犬の名前(日本篇) 日本人に最も膾炙した犬の名前と言えばやっぱりハチ、忠犬ハチ公だろうか。渋谷駅前にあるあの銅像の犬のことだ。東京帝国大學農学部教授上野英三郎とこの秋田犬の物語は本になったり映画になったりしているからあえて説明するまでもないだろう。文字通り喪... 2008.12.14 エッセイ
エッセイ もしもピアノがひけたなら 音楽はまるで駄目だ。演歌なら一、二曲は何とかはずさないで歌うことが出来る。どうしても人前で歌わなければならない時にはそのとっておきの一、二曲を使いまわす。調子に乗って他の歌に手を出すと周囲が露骨に白ける。それ程、場の空気が読めないわけでは... 2008.12.07 エッセイ
エッセイ 泣く 年のせいかめっきり涙もろくなった。もともとそういう傾向があったところにもってきてこの老化現象だから実にしばしば泣く。 新聞を読んでいて子供の事故死などという小さな記事に出会ったりするとぐっとくる。嘆き悲しむ親の姿が目に見えるような気がする... 2008.11.22 エッセイ
エッセイ 岡のけんちゃん 2 犬がうまく納まったとわかるとけんちゃんは足繁く通って来るようになった。鎖で繋ぐような飼い方をしちゃだめだよ、これはいい犬なんだからさ。鎖でつなぐと首のまわりの毛がこすれて、みすぼらしくなる、骨格を狂わせる原因にもなる、そう言われれば言われ... 2008.11.12 エッセイ
エッセイ 岡のけんちゃん 1 岡のけんちゃんは犬猫屋だったがどう考えたってそれだけでは食べていけそうもないから他にもいろいろやっていたのだろう。だけど他のいろいろの事は知らない。犬を買いたいと思い知人たちのつてをたどっていたらやってきたのがけんちゃんだった。素人には見... 2008.11.08 エッセイ